アトピーについて「エントロピーの増大は老化」

 エントロピーを簡単に定義しますと「自然な状態を数量的に示したもの」ということになります。熱力学の第二法則は「閉鎖系の全ての変化はエントロピーの増大する方向に進行する」というものですが、例として電池をあげてみます。電池にはプラスとマイナスがあり電位差を示しますが、このプラスとマイナスをつなぐと電流が流れ、その間に電球やモーターをつなぐと電力を消費してこれらを動かす、つまり仕事をするということです。しかし、プラスとマイナスをつないだままではエントロピーは増大し、最後には電位差はなくなって仕事ができなくなります。電位差があるという「不自然な状態」から、電位差がないという「自然な状態」へと変化し、平衡状態に達するわけです。
 より自然な状態への変化、すなわちエントロピーが増大する変化は、エネルギーを発生し、このエネルギーを利用して電球を発光させる、モーターを回転させるなどの変化を起こすことができるということです。電池は充電するとまた電位差を回復して仕事ができるようになります。この充電は電池に「反エントロピー」を与えることになり、これによって電池は電位差を回復するのです。
 もうひとつの分かりやすい例は砂時計です。砂時計は普通の状態(自然な状態)では下の球に砂がたまっています。外から特別の操作を加えないかぎり、下の球から上の球へ砂が移ることはありません。ここで砂時計を180度回転させて、砂のはいった球を上(不自然な状態)にすると、砂は中央のくびれた小さな穴を通って下に落ち、やがて下にたまって止まります。これは自然な状態、つまりエントロピーが増大した状態で、自然平衡状態です。この穴を大きくすると、砂は早く下に落ちてしまいます。すなわち、エントロピーはより早く増大して平衡状態になります。
 これは生物でも同じで、早く成長するものは早く死に至ります。なぜなら成長が早いのは代謝速度が早いからで、より酸化が進むことに加え、代謝が早いとエントロピーを増大させ、もっとも安定した状態である死へ早く近づくことになります。長生きするには代謝(成長)はゆっくりが良いということになります。つまり脈拍数が多い人よりも少ない人の方が長生きするということです。呼吸と心拍数は深い関係にあり、長い息は長生きにつながります(5回睡眠中の呼吸について参照)。
 人間でも同じで、食べないで放っておけば限りなく平衡状態に近づきやがて死んでしまいます。しかし、我々は食物を食べることにより「反エントロピー」を取り入れ、エントロピーの増大を遅らせることになります。このことは「私たちの細胞は血液からブドウ糖のような栄養源を取り入れ、これを炭酸ガスや水といったものとして外に排泄します。この際、ブドウ糖はエントロピーの小さい物質、炭酸ガスや水はエントロピーの大きい物質なのです」と説明されています。
 食物のなかでも高カロリー高脂肪のものはエントロピーを増大させ、低カロリー低脂肪のものは減少させます。糖質でも脂肪でも、体内でエネルギーとなった後は最終的には水と炭酸ガスになりますが、これらはエントロピーが大きいのです。老化を遅らせるには、エントロピーの小さなものを食べて、エントロピーの大きいものを捨てていかなければなりません。差し引きすればエントロピーの減少になり、これは一種の充電にあたり、反エントロピー操作となります。
 それは細胞についても同様で、エントロピーの小さなものを取り入れ、エントロピーの大きなものを排泄していく必要があります。しかし、細胞の膜や細胞間をうめる結合組織が酸化して働きが悪くなると、エントロピーの小さい栄養素が入りにくくなり、エントロピーの大きな老廃物も排泄されにくくなります。すると細胞のエントロピーは増大していきます。これが細胞の死につながるのです。この現象がアトピー性皮膚炎にも大きく関与していると考えられます。アトピー性皮膚炎の軽減や体の老化を遅らせるためには、細胞膜や結合組織を正常化することが大切です。
 皮膚についてもコラーゲンやエラスチンなどの結合組織が主成分ですから、その原料となるタンパク質と、合成に必要なビタミンCやB群、ビタミンAや亜鉛などを十分にとることがエントロピーの増大を遅らせ、老化を防ぐことになります。それに加えて、慢性筋肉疲労を軽減して血液循環やリンパ液循環を正常に保つことも大切です(39回慢性筋肉疲労とエネルギーについて参照)。また、腸を正常にすることも大切です。腸内腐敗物はその解毒のためにビタミンBとメチオニンを消耗するのです。ところが、脂肪を多くとる人は脂肪を体内で燃焼させる時にビタミンB2とメチオニンが必要になりますので、脂肪摂取量が多いと腸内腐敗物を解毒しにくくなるのです。便秘をすると肌が荒れるということをよく耳にしますが、これは便秘によって腸内腐敗物が増え、ビタミンBとメチオニンの消耗が激しくなるからです。
 また、ビタミンB2とメチオニンは体内で作られる代表的な還元物質であるグルタチオンの製造原料です。ビタミンB2とメチオニンが不足すればグルタチオンが作られにくくなり、肌あれの原因になるのです。アトピー性皮膚炎や肌の老化を防ぐには油もの、とくにリノール酸を取り過ぎないようにし、便秘をしないように注意することが大切になります。さらに積極的には慢性筋肉疲労を軽減するようにマッサージを行い(39回参照)、体内でグルタチオンベルオキシダーゼやSODなど酸化を抑える酵素を合成するようなセレン、イオウ、亜鉛などのミネラルを多く含む食物を多くとり(54回68回参照)、ストレスを避け(22回27回参照)、光とくに紫外線を浴び過ぎないように注意が必要です。

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