睡眠中の呼吸について 「睡眠中の呼吸は1分間に18回が理想」

 日本ではあまり問題視されていないことですが、乳幼児はもとより小児においても睡眠中の姿勢には重要な問題があるのです。オランダやイギリスでは数年前から、アメリカでも最近、特殊な症例以外は「うつ伏せ寝」をやめるよう行政指導が行われています。
 これは自分の吐く息で炭酸ガスが充満し、酸欠状態になるからです。それに加えて、重力に逆らって体を持ち上げて呼吸するため、呼吸筋群に余分な負担をかけ、疲労させやすくする傾向にあり、浅い呼吸しかできなくなってしまいます。そのため呼吸回数が増し、眠りながら自分の吐く炭酸ガスで窒息するという危険な状態に陥ってしまうのです。
 このように、睡眠と呼吸回数には密接な関係があります。順を追ってその重要性について述べてみます。
 発生学的に胎児の世界では、ムカシホヤから始まり太古のえらを持った魚類、両生類、爬虫類を経て、哺乳類に至る過程を再現します。そして、脊椎動物の進化の過程において、水中からの上陸という革命的な出来事を機に、体のつくりが大きく変化したという最重要な進化過程がみられます。
 これはおおむね重力対応としての骨組織の進化と、えら呼吸から肺呼吸への進化といえます。つまり、えらが腸管の袋となって肺ができ、えらあなは耳孔、甲状腺、胸腺(T細胞リンパ球免疫系)などになり、ひれが手足へと進化を遂げたのです。
 また、えらを動かしていた筋肉は、系統発生的にみると呼吸筋で、顔の表情や顎の動き、発声や嚥下(えんげ=飲み下す)運動を司る筋肉群になり、その上、内蔵の筋肉から進化した肺呼吸をつかさどる背、胸、腹の筋肉とも連動しているのです。
 これらの筋肉が疲労もしくは異常を起こした場合(例えば鞭打ちによる頚椎、胸椎捻挫など)は呼吸にも当然影響を及ぼし、浅い呼吸となり耳、甲状腺、胸腺にも影響を与え、大人になってから免疫異常の問題が起こってくることが示唆されます。
 また、我々の先祖のムカシホヤの呼吸器官は「1本のパイプ」のような単純なもので、寄せる波によって酸素を取り入れ、引く波によって二酸化炭素を取り除くという波まかせの呼吸方法をとっていました。
 地球上いかなる場所、北極、南極、アメリカ、日本においても、平常時における1分間の波の回数は18回であります。この自然の摂理は、人類がムカシホヤの性質を遺伝形質しているかのごとく、現在の私たちの体にも睡眠中に発現しているのです。
 つまり、REM睡眠(浅い睡眠)時においては、1分間に18回の呼吸数ならばNONREM睡眠(深い睡眠)に移行しやすく、脳波においてはやすらぎの波長といわれるα波・θ波の発生率が向上するとともに、β-エンドルフィン、エンケファリンなど脳内麻薬様物質の分泌も増加します。
 その時のNONREM睡眠時における呼吸回数は1分間に3回、6回、9回になる傾向にあるようです。また、起床時においても、ゆったりした呼吸を行うことにより、睡眠時と同じく脳波はα波やθ波の発生率が向上し、ボケ防止や学習能力の向上に大いなる働きをするといわれています。
 余談ですが、マボヤといえども、波が荒れると呼吸回数が狂い、精神状態(?)も穏やかでないかもしれません。また、皆さんもご存じだと思いますが、固体差はあるものの、呼吸回数は寿命に深く関係しているのです。例えば、ハツカネズミの呼吸回数は非常に多く、それにともない心拍数も多く、短命といわれています。また逆にゾウに至っては呼吸回数は非常に少なく、それにともない心拍数も少なく長寿を示唆しており、100歳を越えるといわれています。
 これらのことは、睡眠と呼吸回数と心拍数とは寿命に密接な関係があることを意味しているようです。

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