脳卒中について「機能の肩代わりはシナプスの強化で」

 脳卒中が起こっても、努力の甲斐(かい)があって機能が回復した場合、脳の中では何が起こっているのでしょうか。
 一、始めにシナプスが通りやすくなる現象が上げられます。脳の神経細胞はお互いに情報をやり取りして高度な機能を営んでいます。その神経細胞と神経細胞とが情報をやり取りする伝達器官には微小な間隔があり、そこをシナプスと呼んでいます。この連絡が1個の神経細胞につき平均して5000くらいあり、シナプスは使えば使うほど情報が通りやすくなるという特徴があります。
 例えば、我々は言葉は覚える努力をしなくても繰り返し聞くことにより、知らず知らずのうちに話せるようになり、考えたと同時に言葉にすることができます。また、幾度となく計算を繰り返し行うと計算スピードが上がってくるのです。これらは、シナプスは使えば使うほど情報が通りやすくなる現れの1つです。
 反対に使わないと反応を起こすために必要な最小の刺激、つまり電気抵抗のようなものを「閾値」といいますが、その閾値が上がって情報が流れにくくなるのです。つまり、シナプスを使わないと、仮に3の刺激で対応できたものが3以上でなければ対応できなくなります。
 海外生活が長い人が帰国後数年すると以前のように話せなくなったり、計算に無縁の人は計算スピードが年々遅くなります。また、脳卒中で手足にマヒが起こった場合は手足の神経に命令を発する脳の運動領域回路が壊れたと考えられます。しかし、これはリハビリによって徐々に回復します。回復は遠回りしていたバイパスが近くのバイパスに乗り換えるなどの機能の再編成が起こったためと考えられるのです。つまり、遠回りしていた命令が、それとも通じにくかったものが「日にち薬」と努力により徐々に通じやすくなります。
 二、次に発芽現象が考えられます。これは末梢神経では昔から知られていることで、例えば筋肉に10本の神経が来ていて、それぞれが10本の筋線維を支配していたとします。そのうち9本の神経が死んで1本だけ生き残ったという場合、この1本の神経から芽が出て伸びていき、神経が死んでしまった9つの筋線維に結合して、これを支配するということが起こるのです。
 要するに、失われたシナプスがまた回復するのです。これは末梢神経だから起こるのではなくて、脳の中でも同じような働きが起こることが動物実験で確認されています。こうした発芽現象や、使っているうちにシナプスが通りやすくなる現象が、相乗的にあちこちで起こることによって、失われた機能の肩代わりが起こることにより、脳が再編成されていくと考えられます。
 しかし、このような本当の回復は発病約1カ月後から起こってきます。そして機能の再編成は半年から1年、あるいは2年という長い年月をかけて徐々に回復するのです。前回「軸策流」について述べましたが神経線維は1日約1mm再生します。その間地道なリハビリの努力が必要です。しかし、無理なリハビリはかえって症状を悪くします。慢性筋肉疲労を取ってから行いたいものです。(28回30回参照)
 それ以外にも、必要な栄養成分の補給により神経機能の再編成をバックアップするように留意したほうがよいのです。脳は脂肪が多くあり、虚血が起こるとそれが元になって活性酸素を発生しやすい組織です。脳の動脈がつまって、そこから先へ血液が流れなくなると、脳細胞は壊死(えし)し、いわゆる「脳軟化」が起こります。
 脳卒中にともなう症状に対して、健康食品の中に有効といわれるものがありますが、いずれも神経の再生を促進したり、脳の機能の再編成を促進するために役立っているのだと考えられます。
 安価なものとしては、イチョウの葉を青いうちに摘み取り日陰干しにしていてそれを土鍋で煎じた煮汁です。このイチョウの葉のエキスには約13種類のフラボノイドが含まれていて、側副血行路の開通を促す作用があると言われます。小動脈や毛細血管の拡張を促進する事により、血液の流れをよりスムーズに行える作用もあります。また、一時止まっていた血液が再び開通して、血液が流れ始めると活性酸素が多量に発生し、かえって障害が広がる場合にも、イチョウの葉エキスのフラボノイドが、活性酸素の害を軽減する働きをするのです。脳卒中の予防によいばかりでなく、記憶力や集中力を高めたり、視力、聴力の改善にもよいといわれています。
 食べ物では納豆に血栓溶解作用を持つ酵素(ナットウキナーゼ)が含まれ、経口投与でも有効だと言われます。血液の凝固には血小板のくっついて固まる凝集作用が関与していますが、食べ物でこれを防ぐ働きがあるのは、魚介類(EPA、DHA)野菜類(タマネギ、ネギ類)香辛料(生姜、うこん)、きのこ(シイタケ、シメジ)などです。
 これらの食品が脳卒中の後遺症に効果があるといわれるのは、抗酸化作用によって活性酵素の害を抑えるとともに、血液促進作用によるものと考えられます。一方、尿酸は直接的に、また脂肪成分は間接的に、血栓を溶かす線溶活性を阻害するので、動物性食品は控えた方がよいようです。つまり、伝統的な日本食は脳卒中にはよいのです。

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