癌について「アポトーシスが決め手」

 あなたは「アポトーシス」という言葉をご存じですか。アポトーシスは癌を考えるうえで、非常に大切な現象です。例えば、オタマジャクシが蛙になるときに尾が吸収されるのを不思議に思われたことはありませんか。イモムシがチョウになる、ヤゴがトンボになる、蛍やセミなどが幼虫から成虫になる変化を変態といいますが、どういったメカニズムでこのようなことが起こるのでしょう。
 チョウの場合、変態の過程においてはイモムシの蠕動運動をしていた筋肉は、自ら細胞死を起こして消えていきます。そして新たに羽の運動などを支配する筋肉や神経が生まれてくるのです。羽ができる時にも、羽の切れ込みにそっていらない細胞は自ら死んで取り除かれていきます。こうして昆虫の変態では、いらなくなった細胞は自発的に死んで除去されるのです。このような積極的な細胞の死を、アポトーシスと呼んでいます。アポトーシスはいろいろな生き物で起きており、もちろん人間の身体でも起きています。そして、体の機能の防御や制御に重要な役割を果たしているのです。
 アポトーシスの役割としては第1に、生体制御機能の獲得として不要細胞の除去があげられます。生物が体や器官を作っていく過程は、まず細胞を余分に用意しておき、後から余分な細胞をアポトーシスによって除去しているのです。一例として、神経細胞のシナプスの形成過程をとりあげてみましょう。脳の特定の部位から特定の筋肉細胞を結ぶといった神経回路は、長いものでは1m以上にも達します。1本の神経繊維を伸ばして目的の部位につなげるというのは至難の業で、神経繊維の伸びが途中で止まってしまってから、新しい神経細胞を用意するのはでは遅すぎます。そこで前もって神経繊維を余分に産生しておいて、その中できちんとシナプスを形成した神経細胞だけが生き残り、それ以外はアポトーシスで除去されます。この方法により、神経回路の形成確率は高められ、短期間のうちにシナプスを形成することができるのです。ほかに、内分泌系による恒常性の維持、免疫系の多様性や特異性の獲得にもアポトーシスは一役を担っています。
 アポトーシスの役割の第2に、生体防御機能の獲得にも異常細胞の除去が必要ということがあげられます。免疫細胞というのは自己と非自己(異物)を区別し、異物と対応してこれを攻撃し、無害化する細胞です。しかし、初めからそのように働くのではなく、骨髄で作られた造血幹細胞が胸腺というTリンパ球教育機関で教育を受け、自己成分に反応するものは除去され、異物にのみ反応するTリンパ球が末梢に出てくるように選択していきます。つまり胸腺で自己に反応する細胞が、アポトーシスにより自滅除去されます。また、口呼吸による「咽頭扁桃リンパ輪」の細菌感染もBリンパ球のアポトーシスを狂わせます。(1996年10月15日付け参照
 今日、癌をはじめとする難病といわれている病気の要因の1つとして、このアポトーシスの異常が提唱され始めています。胸腺や咽頭扁桃リンパ輪でアポトーシスが確実に行われないと、自己反応性の免疫細胞や狂った免疫細胞が血液中に放出されます。自己の組織が攻撃を受けて、自己免疫疾患(関節リュウマチなど)や癌細胞を見逃すことになります。
 そこで免疫担当細胞が暴走を防ぐためには、胸腺の辺りをマッサージや指圧、瀉血、吸引などをして胸腺の体液循環を促進させて、教育機関としての働きを助けること。胸腺は胸の中央部分にあるTリンパ球の教育機関であり、大人になるに従って小さくなっていきます。しかし大人になっても多少はTリンパ球の教育を行っています。よって子供はもちろんのこと大人でも胸の中央部分の慢性筋肉疲労は胸腺にも大きく悪影響を与えるのです。さらに咽頭扁桃リンパ輪に直接的な外気による刺激を与えないよう口呼吸をやめ、歯磨き、うがいを併用して細菌感染を防ぎ機能を正常にさせるように心がけることが大切です。
 いずれにせよ、異常をきたした細胞、例えば癌細胞やウイルス感染細胞などは細胞ごと除去してしまうほうが、生体にとっては安全な方法です。正常に教育を受けた免疫担当細胞は異常をきたした細胞に幾度となく立ち向かい、傷つき死滅しては幹細胞の分裂増殖によって補われ教育され、そしてまた戦場へと向かうのです。

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