産経新聞「家庭と健康」に噛み合わせについての記事掲載

■噛み合わせが全身に及ぼす影響
 歯科治療の中心は有史以来の二大疾患である虫歯、歯周病です。
 最近ではこの虫歯、歯周病に対してさまざまな原因が解明され、それに対する有効な治療方法も開発されて、随分、苦痛から解放されるようになりました。
 しかし、歯科領域には、こうした虫歯、歯周病以外にもさまざまな疾病があります。
 近年、とくに注目を浴びているのが、噛(か)み合わせに由来する「咬合(こうごう)病」といわれるものです。特徴は、症状が歯や口腔以外のところに現れてくるところにあります。
 たとえば顎(がく)関節部の痛み、口が開かない、口を開くと音がするなどの口腔領域に関するものはもちろんのこと、全身へと目を転じると、骨格の乱れ、原因不明と称される頭痛、肩こり、腰痛、耳鳴りなどの不定愁訴から、高血圧、心臓病などの内科的疾患までさまざまです。
 1977年、アメリカの工学博士、C.M.グゼイが、ノーベル生理学者・セリエのストレス学説の流れとしてクォードラント理論を発表しました。
 この理論が日本に伝わってくるまでは、歯の噛み合わせが全身に影響を与えるなどとは日本歯科医のほとんどは認めようとはしませんでした。
 その後、顎関節症(顎偏位症)といった病気が歯科の領域においてクローズアップされ、近年、噛み合わせの調整で口腔から離れた身体他部の症状が改善された患者さんの例が報告されて以来、日本においても咬合が全身に及ぼす影響についてさまざまなことが提唱されるようになり、「噛み合わせを治すと病気が治る」をテーマにマスコミに取り上げられる機会が多くなってきました。
 例えば腰痛など身体のどこかに疾病を持つ患者さんがさまざまな病院や医院を訪れ、それでも症状が改善されなかったりした場合、原因が噛み合わせにあるのではないか─と、歯科に来院される方が確実に増えています。
 一部の歯科医の間ではすでに咬合病と思われる症状に対して咬合調整、スプリント治療、理学療法、手術、またはオーラルリハビリテーションと称する高額治療が行われており、それなりに成果も上がっているようです。
 しかし、また「これ」といった決め手もなく、暗中模索しながら、いろいろと試行錯誤しているのが現状です。
 では、どうして噛み合わせが全身へ影響を与えるのでしょうか。その理由として、人が静かに浮かび、下顎を左に振ると身体はもとより足も左に振り、逆に下顎を右に振ると足も右に振ります。つまり、顎の動きは身体全体、つま先まで影響を及ぼすのです。
 右とか左とかの片方での変則噛みをしている人は、よく噛むほうの筋肉の緊張度が増すことにより、身体がよく噛む方に歪(ゆが)む結果になります。
 いうまでもなく、この現象は噛み合わせが悪い人は身体が歪むことを意味します。
 また、人は緊張したり、頑張ったりするときには「歯を食いしばる」、つまり、力を入れると無意識に奥歯を食いしばり、筋肉系にかかわるすべての緊張が全身の筋肉を疲労させる力となって働きます。
 逆もまた真なりで、ストレスやそのほかの刺激による、たとえばむち打ち、腰痛、慢性筋肉疲労や捻挫(ねんざ)などの筋肉の位置異常などが、咬合病や、その他多くの疾病の原因や要因になっている─との学会発表もあります。
 つまり歯科医は、整形外科とのコミュニケーションをとって身体の歪みを出来る限り補正してから、補正しきれない些細(ささい)な歪みを噛み合わせで補正することが大切であるといえます。
 人は歯を食いしばることにより緊張し、愚ちを言うことによってストレスを解消します。
 換言すれば「噛み合わせは全身に及ぼす緊張のスイッチである」と言えます。
 口は大いなる働きを伴いますので、誤操作さぬように、噛み合わせのチェックを致しましょう。

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