脳卒中について「脳出血+脳梗塞(こうそく)=脳卒中」

 近年、死因の第一位はガンですが、脳卒中と心筋梗塞を総合した循環器系疾患の死亡率がガンを上回るようになりました。時々「脳卒中でおじいちゃんが倒れ、左半身が動かなくなった」ということを耳にします。特に夏場よりも秋から冬場にかけてそういった話を耳にする機会が増えます。
 では脳卒中はどの様な病気かといいますと、脳出血と脳梗塞に大きく分けられます。脳出血は文字どおり、脳の血管が破れて出血するもので、減少傾向にあります。出血した血液によって脳実質が圧迫されるため、圧迫力が毛細血管からの出血の力以上に強くなると止血します。たとえ流れたとしても神経細胞は生きていくのに扱々として、本来の高等な精神作用など行うことができなくなります。
 脳梗塞は、さらに脳血栓と脳塞栓に分けられます。脳血栓は動脈硬化によって血管が詰まり、そこから先へ血が流れなくなるもので、増加の傾向にあります。一方、脳塞栓は心臓など身体の他部から血液の塊が流れてきて、これが脳の動脈を塞(ふさ)ぐ、つまり閉塞するために血管が流れなくなり、そこから先の組織が壊死(えし)するものをいいます。
 脳梗塞は脳の血管がつまって、その血管に養われている神経細胞が死んでしまい、その結果、脳に浮腫、俗にいうむくみが起こります。このように脳卒中によって脳の壊れた部分の働きが損なわれるばかりでなく、その周囲の広い範囲の機能も停止してしまうのです。ところが、脳出血では軽度の場合、1週間くらい経つと血液の塊が溶け始め、血塊の大きさにもよるのですが、平均して約1カ月ほどで血の塊は吸収されてしまうといいます。そうすると周囲への圧迫はなくなり、症状は好転してくるのです。
 また脳梗塞の場合も、浮腫は1カ月程で治まり、周囲への影響がほとんどなくなってくるといいます。したがって、脳出血でも脳梗塞でもはじめはかなり大きな症状が出ますが、順調な場合は1カ月ほどで、そのような症状はほどんど消えてしまうといわれます。例えば、大脳の視床の外寄りのところに「内包」と呼ばれる部分があります。内包には中大脳動脈の枝が分布しているのですが、これは脳に分布する動脈の中でいちばん出血を起こしやすい動脈といわれいます。この内包は、脳の運動神経の命令を伝える神経繊維が集中しているところであり、これが障害されると非常に強いマヒが起こるのです。
 しかし、脳卒中が内包ではなくその近くで起こった場合、内包に強い圧迫や浮腫の影響が及んでいる場合は、1週間程は強いマヒが続きますが、血の塊が吸収され浮腫が消失し圧迫が取れていくに従って徐々に回復し、1カ月もすると元の状態にもどることも少なくないといわれます。ところが、こうした障害が内包を直撃した時は、多少は回復をみても元通りにもどるのは大変難しいといわれます。つまり、脳卒中というのは脳のどの部位が壊れたか、その大きさはどの位かということが、回復のカギを握っていることになります。
 最初の1カ月間での回復度合いが思わしくなかったとしても、気を落とす必要はありません。本当の回復つまり機能の再編成は発病の1カ月後から起こってくるといわているからです。それは脳の残った部分が損なわれた機能の肩代わりをするからです。この場合にも先の条件は生きていて、壊れた部分がそれほど重要なところでなく、また壊れ方も小さければ、ほぼ元通りに戻るであろうといわれます。
 例えば、普段何の支障もなく生活している方が、たまたま脳のレントゲン検査をしたら血栓がみられ、脳の組織の一部分が崩壊していたという場合がありますが、その3カ月後の再度検査時には、正常な状態に戻っていたという場合も時々あるのです。このように場所と範囲によっては何の支障もなく生活している場合も多いのです。
 しかし大事な部位でしかも壊れ方が大きい場合、回復率は悪くなります。脳の動きというのは神経細胞つまり脳細胞だけの動きではなく、複雑に張りめぐらされた神経繊維のネットワークの情報がやり取りされるとによって行われます。神経細胞が死滅すると再生は行われませんが機能はある程度再編成できるのです。これはむしろ脳が高度に発達したからできることといって過言ではないでしょう。脳は皆さんもよくご存知のように、右脳と左脳また前頭葉や側頭葉、後頭葉などの部分によっても働きが異なり、脳は分業があるといわれています。
 昔は脳の機能局在説といわれて、手足の動きや言葉、知能の働きなどは全部、脳の場所ごとに決まっていて、一度そこが壊れたらその部分が支配する働きは二度と戻らないと考えられていました。これに対し「全体説」という考え方もあって、脳は全体が同じ働きをしているのであって、どこが壊れたか場所が問題なのではなく、どれだけ壊れたのか、量が問題だとする考え方もあります。そして、いろいろと研究が積み重ねられた結果、脳の働きは両者の説の中間であることが分かってきました。つまり、脳には大まかな機能の局在はあるのですが、それはそれほど厳密なものではなく、お互いにオーバーラップしているといいます。これを「動的局在説」といいます。
 例えば、脳のある部分は手足の機能を支配する働きをかなり強く持っていますが、それはその部分だけではなく、他の部分にもあるのです。脳が広範囲に壊れた場合は回復はあまり望めませんが、比較的狭い場合には、周囲にある同様な働きを持つ神経細胞間の連絡をうまく再組織できれば、失われた機能の肩代わりができるのです。あきらめずに慢性筋肉疲労を取りながら無理のないリハビリに励むことが大切です。

mn70