ミネラルについて「クロムは玄米食で」

 クロムはあまり聞きなれない名前かもしれませんが、非常に大切なミネラルの一つです。クロムは身近なものに多く含まれています。例えば穀類の胚芽や乾燥酵母に多く含まれており、含有量は100g中に22μgで、食品中では最も多いのです。そうなると、穀類を主食にしている日本人には不足しないことになります。しかし、現代の日本人にはクロムの不足している人が急増しているのです。その理由は穀類を精白して主食にしているためと考えられます。穀類は胚芽のついた玄穀のまま食べるのがよいということになります。しかし玄米などはよく噛んで食べなければ、胃腸障害を引き起こすことになり注意が必要です。
 また、調理のさいに使用する器具も大切で、ステンレス製品がクロムの補給に役立つといわれれます。ステンレスはニッケル・クロム鋼で、クロムを含む合金です。昔は鉄製の調理器具が使われ、鉄欠乏性貧血などの鉄の補給に役立っていました。いま使われているアルミ製品は、アルミニウムが老人性痴呆(アルツハイマー病)と関係あるのではないかと指摘されています。したがって、使うならステンレス製品の方がよいと私は考えています。
 クロムなどの微量元素が不足したときに現れるのは、全身的な症状ではなく部分的な症状が多いため、体内でどのような働きをしているか明確に分からなかったのですが、昨今徐々に解明されてきています。クロム不足がどのように病気に関わっているかといいますと、まず挙げられるのが糖尿病です。長期間、人工輸液に頼らざるをえない場合、クロムがなければ糖尿病になることは周知の事実です。我々はご飯やパンなど糖質のものを食べますが、この糖の代謝にクロムが必要で、クロムは耐糖因子の構成要素の1つなのです。つまり糖質を多くとると、それに比例してクロムがたくさん必要になります。
 ところが穀類が精白されていると、胚芽に多く含まれているクロムの摂取が困難になるため、体はクロム不足となり、糖尿病を助長する結果になります。とくに白砂糖のような甘いものはクロムがほとんどなくて高カロリーのため、白砂糖などの精白甘味料を多食すると糖代謝がスムーズに進まず、糖尿病になる可能性が高くなると考えられています。
 また、クロム不足は動脈硬化とも関係があり、精白した糖質を多く取ると動脈硬化になりやすいことが、疫学調査で明らかになっています。これもクロム不足で糖代謝が円滑に行われないためであるといえます。つまり、クロムは現代の生活習慣病に少なからずかかわっているのです。主食などは未精白、すなわち胚芽を含むものを食べるのがよいといえます。砂糖でも白砂糖にはクロムはほとんど含まれていませんが、黒砂糖にはかなり多く含まれています。甘いものが欲しいときは黒砂糖を少し用いる方がよいでしょう。
 概ね糖尿病は親から子へと遺伝する疾病でありますが、家族に糖尿病患者がいないにもかかわらず起きるインシュリン非依存性糖尿病の人は、暴飲暴食の方が多いようです。アルコールを飲むのならブランデー、ウイスキー、日本酒、ビールなどのなかでもワインにはクロムが多く、250mlで1日のクロムの必要量の半分が取れるといいます。また、今日のビールはコーンスターチを使用しているものが多いなかで、エビスやモルツなどがよいと思います。
 クロムは感染症に対する抵抗力を高め、細菌やウイルスの侵襲を防ぐうえで大切です。玄米菜食は生活習慣病を防ぐためばかりでなく、感染症の予防のうえからもよいと思われますが、魚介類などとのバランスも必要でしょう。乾燥酵母にクロムが多いことはさきほど述べましたが、米国では酵母にクロムを取り込ませた製剤が商品化されてます。日本では「クロマックス・イースト」という名で発売されています。これは15粒で1日の必要量がほぼ満たされるようです。砂糖きびを植えた農地にクロムなどの無機物を散布し、それを植物に吸い上げさせ、これを元に酵母を培養しますと、クロムを多量に含んだクロム濃縮酵母ができます。同様にしてセレン濃縮酵母も作られ、日本でも「ミネラルパワー」という名で発売されています。
 クロムは高脂血症にも効果があり、血中コレステロールや中性脂肪の多い人の治療食としても、クロム濃縮酵母が用いられています。この濃縮酵母は腋臭(わきが)にも効果があり、甘いものや食べ過ぎによる腋臭には、クロム濃縮酵母を使うといいようです。ところで、クロムには三価クロムと五価クロム、六価クロムがありますが、六価は猛毒で、三価より体に吸収されやすく有害です。また六価が三価に還元される途中で五価ができます。これも有害ですが、おもに工業用として用いられ我々一般人の目に付くことはまずありません。
 我々が食物から摂取するもの、つまり天然に存在するクロムは三価です。これはいうまでもなく、毒性はありません。クロムの1日の必要量は0.01~1.2mgといわれ、許容範囲には幅がありますが、不可欠なものです。クロムが不足すると前述したような障害が起こり、健康を損なうので注意が必要です。また微量元素の不足は全身疾患として出ることは少なく、局所症状として出ることが多いのですが、クロムは糖尿病のように全身疾患に関与しているミネラルです。多量に取り過ぎないように適量を摂取することがよいと思います。次回はヨードについて述べます。

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