ミネラルについて「セレンで不整脈を予防」

 34番目の元素セレン<Se>はセレニウムともいい、ゲルマニウムと同様金属と非金属の中間の半導体に分類されます。米国ではセレンを多く含んだ酵母製剤がガン、動脈硬化、心臓病などの治療食として発売されていますが、日本では平成7年12月に許可され、日本タイニス社から「ミネラルパワー」として販売されています。日本での許可が遅れたのは、セレンの毒性がはっきりしないという理由からでした。微量元素というのは適用量の幅がせまく、その量を越えると中毒性が出てくることがありますが、セレンはその幅がはっきりしなかったのです。
 セレンは食品では、ゴマ、ネギ、ニンニクなどに多く含まれています。ミネラルは植物性のものが効力が高いといわれ、とくにセレンはその代表です。近年セレンが一躍有名になったのは、ガンに対する有効性が判明したからです。土壌にセレンが多い地域は発ガン率が低く、少ない地域では高かったという調査結果が出ています。また、セレンが少ない地域で育てられた馬にセレンを与えると、発育が良く、足が速くなり、受胎率も高まったといいます。動物実験でもセレン欠乏症が認められており、低セレン飼料を用いたラットでは、発育遅滞、貧弱な被毛、不妊症が認められます。
 これとは逆に、セレン過剰は動物の方向感覚を狂わせます。これは家畜が、セレンを濃縮したムラサキゲンジ属の植物を食べて起こります。高濃度のセレン摂取によりセレン化合物が生体内で代謝されると、タンパク質や核酸、複合糖質中のイオウ原子がセレン原子に置き換えられ、結果として正常な機能を発現できなくなったり、イオウ化合物の代謝が拮抗的に制御される結果、毒性につながるものと考えられています。
 しかし、セレンは1969年に哺乳動物にとって必須であることが証明されました。欠乏症として中国で発見された克山病やカシンベック病が知られています。克山病はおもに子供の心不全で、慢性と急性はほぼ同じといわれています。1935年に克山地方で大発生し、検査の結果セレンの欠乏が認められました。1974年になって、子供に亜セレン酸ナトリウム含有錠剤を投与し、患者の発生を抑えることができました。現在、この病気について完全には解明されていませんが、克山地方では亜セレン酸ナトリウムを食卓塩に添加したり、穀物に散布したりしています。
 また、セレンは最近多い不整脈にも効果があるこことが分かっています。心筋は多くのエネルギーを使うので、これが不足すると不整脈が起こるという考えがあります。この心筋のエネルギー源となっているのは、ビタミンの1種のユビキノンです。このため病院で不整脈と診断されると、ユビキノン製剤が出されます。しかしこれは本来、血液中にビタミンEが十分にあれば、体内で合成されるものです。不整脈にはその前の段階にさかのぼって、ビタミンEを多量に与えるという治療法もあるのです。
 ただ、ビタミンEがあってもユビキノンが合成されない人はセレノシステイン、セレノメチオニンなど、セレンを含んだアミノ酸が必要であり、セレンが不足するとビタミンEがあってもユビキノンはできません。昔から心臓病にはゴマがよいといわれますが、ゴマにはビタミンEとセレンが多く含まれているためで、ゴマは心掛けて食べるようにしたいものです。つまり、普段から雑穀を食べていれば、不整脈の予防には役立つのです。
 またセレンは魚類にも多く含まれています。海には水銀が流れ込んでおり、とくにマグロには水銀中毒になってもおかしくない程、多量に含まれていますが、マグロはピンピンしています。それは水銀とともにセレンも多く含まれており、これが水銀の毒を抑えているといわれています。動物実験でもラットに水銀を与える前に、セレンを含んだアミノ酸を与えておくと、水銀中毒を著名に抑制するといいます。水俣病は有機水銀による中毒病ですが、セレンの多い食べ物を摂取していたら、発症率が低下した可能性は否定できません。
 そのうえ、先に述べましたように、セレンには抗ガン作用があります。その理由としては、発ガン物質の代謝を変える、変異原性を抑えるなどといわれます。優秀な抗酸化剤であるセレン依存性グルタチオンペルオキシダーゼに代表され、フリーラジカル除去作用や抗酸化作用は抗ガン剤作用としても見落としてはならないことです。
 セレンには抗炎症効果、免疫促進効果のように興味ある生理作用が見いだされつつあります。また、セレンは元素の性質としてはイオウによく似ています。ところが反応性はセレンの方が圧倒的に強く、セレンがイオウと入れ替わってしまうおそれがあります。年をとると、体の結合組織のなかのコンドロイチン硫酸やヘパリンなどの硫酸化合物が減ってきます。硫酸化合物つまりイオウ化合物は解毒にもかかわっており、大切な成分なので、もし、セレンを取り過ぎて、これがイオウを追い出してしまうと、生体反応に支障を来すことになりかねません。しかし、欧米、とくに欧州ではチェルノブイリの原発事故があって以来、セレンの需要が多くなっています。放射線障害がかなり深刻なためにセレンを盛んに取っているといわれています。
 また、身近なところでは頭皮につく細菌を微量で有効に殺菌、かつ人体にはほとんど吸収されないため、フケ止めシャンプー<SeS2>として、イヌの皮膚用軟膏<Se(SO4)2>、工業用にと幅広く利用されています。私は成人では毎日約40~50μg摂取するよう心掛けるのがよいと考えています。次回はクロムについて述べる予定です。

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