ミネラルについて「マリア様は処女妊娠?」

 カルシウムが不足しやすいというのは、摂取量が少ないためばかりでなく、吸収率が低いためでもありますが、一に歩行量の減少による重力対応力の低下、二にストレス増大による慢性筋肉疲労、三に消化吸収力の差だと、前回述べました。事実、カルシウムは摂取した量の70~90%は排泄されるといいます。
 人体を支えている背骨は、コラーゲン繊維を除いてほとんどがカルシウムでできており、その中に骨髄がおさまっていますが、これはすぐカルシウムが利用できるようにとの配慮だと考えられています。人間をはじめ陸上に上がった動物は、重力的対応のために骨組織が発達したのですが、それに加えて、カルシウムやマグネシウムがいつ不足するかわからないので、そういう時のためにカルシウム、マグネシウムを貯えておき、細胞・組織の動きを円滑にするよう骨が発達したのだといわれます。
 以前にも触れましたが、例えば筋肉を細かく見てみますと、アクチンとミオシンという二つの筋繊維から成っています。筋肉が収縮するときは両方の筋繊維が互いに滑りこむような形で重なります(26回参照)。筋繊維の中には筋小胞体という袋があり、この中にカルシウムが納められています。筋肉が収縮するときは、この袋の中からカルシウムが放出され、筋センイが収縮します。カルシウムが出たままでは筋肉は収縮したままであり、これが慢性筋肉疲労となり、やがてはトリガーポイントになります。つまり、筋肉は縮み、弾力性や可動性が失われます。
 これが、1個の細胞レベルで行われるものに、あまり耳慣れない言葉ですが、細胞内骨格というものがあります。例えば、精子は卵子をめがけてベン毛を動かして泳いでいきます。受精した卵子は回転運動をしながら卵管を進みます。アメーバが伸び縮みしながら移動運動をする、これらはみなカルシウムに依存しており、カルシウムが細胞の中にはいると縮み、出ると伸びるという働きによって運動をしているのです。これが細胞内骨格です。
 精子が卵子に到着し、受精すると細胞分裂が始まりますが、そのキッカケとなるのもカルシウムなのです。したがって、精子がはいらなくても、卵子にカルシウムを注入すれば細胞分裂は始まります。また、卵子に適度の物理的刺激を与えるだけでも細胞分裂は始まります。この場合も無性生殖で、染色体の数は正常の半分しかないといわれます。つまり、母親と何も変わることのない個体が生まれることになります。それは自分自身の分身であり、寸分違わぬため臓器移植がどの部位でも可能であるということです。
 話は少し変わりますが、もうすぐクリスマスです。キリストの母のマリアが処女妊娠をし、キリストが誕生したといわれています。卵子に刺激が加わると、分裂をおこし生体が誕生するという動物実験的事実は、マリアがキリストを処女妊娠したとの言い伝えが、科学的にあながち否定はできない可能性を示唆する現象だといえるのです。
 また、腎不全になると人口透析を受けることになりますが、そういう人は活性型ビタミンDができないため、腸管からカルシウムの吸収ができなくなります。そうなるとカルシウム不足になり、副甲状腺が働き骨からカルシウムが溶出されてきます。これが電荷を失うとヒドロオキシアパタイトや炭酸カルシウムなどになり、脳にたまると記憶障害を起こしたり、抑制がきかなくなったりするのです。いわゆる透析ボケが起こることになります。
 このようにカルシウム不足の害は全身に及ぶと考えられるので、生活習慣病の前の段階では骨密度が低下してくるといわれています。神戸大の藤田博士は、あらゆる生活習慣病の前の状態をチェックするには、骨密度を調べるのがよいと言われています。そしてカルシウムの吸収をよくするには、骨組織の有機質としてコラーゲンやコンドロイチン硫酸を摂取するとともに、腎臓を痛めつけないことが最も大切なことの一つです。
 それには(1)カロリーを制限すること(食べ過ぎは腎臓を悪くします) (2)タンパク質や脂肪を取り過ぎないこと(タンパク質は窒素を含んでおり、これを尿に出すときは腎臓に負担がかかります) (3)無理なダイエットをしないこと(糖新生はタンパクや脂肪を分解して窒素を尿に出します) (4)塩分の摂取を控える(タンパク質を取り過ぎてもカルシウムの尿への排泄が増しますが、ナトリウムも多く取るとカルシウムが尿に排泄されます) などの注意が必要です。タンパク質は、ある程度はカルシウムの骨への取り込みを促しますが、取り過ぎると尿への排泄が増えます。結局、日本食のように総カロリーの約20%以下のタンパク質が適当といわれています。
 みなさま、良いクリスマスをお迎えください。そして日本料理の代表ともいえるおせち料理で、良いお正月をお迎えください。

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