ミネラルについて「ストレスはマグネシウム不足に」

 ヒトの体内には16種類の必須ミネラルがあり、それらは成長や生命活動を維持するうえで大切な働きをしています。必要量を満たすことはもちろんですが、おたがいに適正なバランスを保ちながら働いています。したがって、ミネラルの補給にあたっては、自然なバランスで総合的に含まれているミネラル源を摂ることが重要です。日本人のミネラル摂取量は、かなり以前からカルシウムが不足しているといわれています。厚生省が定めた所要量は成人1日で日本は600mg、米国で800mgですが、日本ではこの所要量を満たしていないようです。ファーストフードや肉類、加工・精製食品が多く、ストレス過多の時代はこれでは少ないとの指摘もあります。
 最近、「お父さんの更年期」という本を読んで驚きました。当院にも多くの中高年者が同様の症状を訴えて来院されるからです。また「渡哲也の俺」では、男は仕事に命を賭けるものだという渡さんの生きざまには感心しましたが、その反面、このストレスはミネラルやビタミンを大量に消費することになり、大病の危険性があることを物語るともいえます。とくに、マグネシウムが高血圧を抑えるカルシウム拮抗剤であることを述べましたが、カルシウムを補うとき、あわせて補給しなければならないのがマグネシウムです。マグネシウムはカルシウムより半分以上の量を摂らなければならないといわれ、これが不足すると狭心症や心筋梗塞などの心臓病が起こりやすくなることが知られています。
 高血圧が起こるメカニズムはいくつかありますが、その1つにマグネシウム不足はもとより、面白いことに相反するカルシウムの不足があります。その仕組みは少々複雑で、食事から摂るカルシウムが不足すると、血中カルシウム値が低下します。これでは命が危うくなるので、副甲状腺からパラソルモンというホルモンが分泌されます。これが骨からカルシウムを溶かし出してきます。ただ、パラソルモンが必要量のカルシウムを溶かし出してくればよいのですが、必要以上量が溶かし出される場合が多いのです。また、溶かし出されたカルシウムは再び骨組織に戻りにくいヒドロオキシアパタイトという形に変化する場合が多く、これが骨粗鬆症の原因といわれる所以なのです。その上、パラソルモンには血中の余分なカルシウムを血管壁や軟骨部などの軟部組織に押し込む作用があります。こうして血液中に余ったカルシウムが血管の平滑筋細胞に流入すると、血管が収縮して内腔が狭くなり、血圧が上昇する結果になります。これが高血圧が起こる1つのメカニズムです。
 高血圧の薬として最も多く使用されているカルシウム拮抗剤は、カルシウムが血管の平滑筋細胞に流入するのを阻止する薬なのです。この薬が効く人が多いということは、カルシウム不足の人が多いことを示しているともいえます。したがって、そういう人はさらにカルシウムの経口摂取を増やすとともに、栄養素の中でカルシウム拮抗剤的な作用をするマグネシウムやビタミンCなどを摂るのがよいことになります。つまり、カルシウムとマグネシウムは拮抗する作用があり、カルシウムは動脈を収縮させるのに対しマグネシウムは弛緩させ、動脈はカルシウムとマグネシウムの適度のバランスによって収縮・弛緩を繰り返しています。
 健康維持にはカルシウム2、マグネシウム1が理想的といわれています。体の貯量からみてもカルシウムは1kgちかくを保有しているのに、マグネシウムは25gないしそれ以下しか保有していないので、少しの変化でも大きく影響を与えやすいのです。厚生省の定めたカルシウムの所要量が600mgですから、マグネシウムは300mgということになります。
 しかし、現代のようなストレス時代には、この比率の摂取量ではダメなように思います。何故かと申しますと、マグネシウムはとくにストレスで失われやすいミネラルだからです。ストレスの多い人、それによる半健康人、半病人になっている人では健康増進のために1対1の比が望ましいとされ、マグネシウムも600mgが必要であると思います。カルシウムには筋肉の収縮作用、マグネシウムには拡張作用があり、相互の割合が大切です。
 マグネシウムの人体への作用として、血管拡張作用により、心臓病、高血圧症の予防効果がいわれています。また、200あまりの生体内酵素反応の活性化作用、骨形成への関与、生体内のエネルギー生成酵素の活性化作用などがあげられます。さらに筋肉が収縮するときは、筋小胞体細胞の中からカルシウムが放出され、それが逆に戻されると弛緩します。このように筋小胞体細胞へのカルシウムの出入りがスムースだと、筋肉運動は円滑に行われますが、ストレスによるエネルギー不足は筋肉運動を妨げます。カルシウム同様に微量元素としてのマグネシウムも現代食やストレスの問題と一連の関係にあり、それぞれバランスよく摂るようにしたいものです。

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