ミネラルについて「カルシウム不足は骨粗鬆症?」

 海の魚と陸上の動物とではカルシウムを考える上で大きく違います。それは、骨からカルシウムを溶かし出すホルモンを分泌する副甲状腺という器官があるかないかということです。現在の海には常に豊富にカルシウムが存在しています。このため、海の魚類はいつでもカルシウムを吸収することができるので、副甲状腺ホルモン(パラソルモン)は必要ではなく、副甲状腺を持っていないのです。ただし、甲状腺から分泌され血液中のカルシウムを骨に沈着させるカルシトニンというホルモンは持っています。
 人間の血液中のカルシウム量は、100ml中に10mgほどで、カルシウムの血中濃度が極度に低下すると、副甲状腺ホルモンが分泌されて骨からカルシウムを溶出して血中濃度を一定に保とうとします。これが重度になると骨粗鬆症になると考えられています。外見は区別がつきませんが、骨の中がスカスカになり、転倒したり軽くポンとたたかれただけでも、ひどい時はセキだけでも骨折する場合があります。
 これからの高齢化社会で骨粗鬆症は重大な問題になると考えられます。それではカルシウムを多く取れば取るほど良いのでは、ということになります。しかし、カルシウムは過剰に取ると吸収率は低下していきます。これはマグネシウムの場合も同様で、体にはホメオスタシス(恒常性維持機能)があり、体内で一定濃度に保たねばなりません。したがって、多量に摂取すれば吸収を抑制するように働き、吸収率は低下するのですが、現実に多く取れば骨につく割合は増えますから、カルシウムは多く取った方が良いのではということになります。
 しかし、カルシウムも当然ミネラルであるためイオン化しなければ吸収されません。吸収されたとしても、体内で電化を失うと沈着し、動脈硬化などを引き起こしますので、多く取ればよいというものではありません。胃腸の酸やアルカリでイオン化して吸収するより、もともと水溶性のカルシウムを取る方が体内で電化を失い難いのです。つまり、水溶性カルシウムや水溶性ミネラルを取る必要があるのです。
 人でも魚でも血液中にカルシウムが多くなってくると、甲状腺からカルシトニンが分泌されて、おおむね骨にカルシウムを貯えていきます。よって骨粗鬆症の患者さんには、サケのえらなどから作られるカルチシニン製剤や活性型ビタミンDが用いられています。要は、骨からカルシウムを溶かし出すのが副甲状腺ホルモンで、この反対にカルシウムを骨にくっつけるのが、甲状腺ホルモンのカルチトニンということです。
 そして、もう一つ、カルシウムの代謝にかかわるのがビタミンDです。それも活性型ビタミンDと呼ばれるもので、まず肝臓と腎臓で活性化されて、活性型になったビタミンDでないと効果がありません。名前はビタミンですが、これは一種のホルモンに分類されるもので、劇薬に指定されています。こうしてビタミンDは活性化されて初めて腸からカルシウムの吸収を高め、骨につきやすくさせることができるのです。よって、腎臓の悪い人はカルシウムの吸収ができにくいことになります。
 カルシウムは腸に到達すると、カルシウム輸送タンパク質に乗って吸収されます。この輸送タンパク質を作るのが、活性型ビタミンなのです。したがって、腎臓が悪いと、いくらカルシウムを取っても吸収されず、腸管を素通りしてしまうことになります。そこで、体外から活性型ビタミンDを投与すると、腎臓は活性型ビタミンDを作ることを怠るようになり、よけいに腎機能低下を助長するおそれがあり注意が必要です。
 カルシウムやマグネシウムなど、二価のミネラルは尿よりも大便からかなりの量が排泄されます。またカリウムやナトリウムは尿から出る方が多いのです。高齢になると、肝臓や腎臓などの機能は低下してきます。とくに80歳を過ぎると、腎臓の機能は健康な人でもピーク時の3分の2に落ちてしまうといわれます。まして腎不全になると、腎機能は急激に落ちる結果、骨にカルシウムが添加され難くなり、骨粗鬆症になりやすくなるのです。
 ビタミンDの供給源とされる肝油には、ビタミンAも多く含まれていますが、このビタミンAもホルモン的な働きをしているのではないかといわれています。また、「慢性筋肉疲労」を除いて考えますと(36回参照)、女性が男性より骨粗鬆症にかかりやすいのは、もともと骨のカルシウム量が少ないうえに、閉経後女性ホルモン(エストロゲン)の分泌が減少し、骨からカルシウムの流出が多くなるからです。
 つまり、エストロゲンには骨を育てる骨芽細胞の活性化と、骨を破壊する破骨細胞の抑制効果があり、骨からカルシウムの溶出を抑えます。これが月経不順などでエストロゲンの分泌が狂うと、骨にも影響し、閉経後の女性に骨粗鬆症が多くなる原因だといわれています。体内にダイレクトに吸収される水溶性カルシウムをほかのミネラルとバランスよく取るように心掛け、骨粗鬆症を予防したいものです。

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