ストレスについて2「ストレスは骨粗鬆症を引き起こす」

 ストレスについてのお問い合わせがあまりにも多かったので、予定を変更してストレスについてもう少し述べます。
 ストレスというのは、元は物理学の用語です。例えば、ゴムボールを指先で押すとボールはへこみます。このような外力によって歪んだ状態から元に戻ろうとする力のことをストレスというのであって、いま一般的にストレスといわれているのは、もともとの意味と少し違っています。この物理用語を、生体とそれに加えられる刺激との関係にあてはめたのが、50年代にカナダのハンス・セリエ博士が提唱したストレス学説です。
 厳密にいうと、ボールを指で押して(外的要因)へこんだボールが元に戻ろうとする力がストレスであって、ボールに加えられた圧力はストレッサーといいます。一般的にこれが混同して使われています。
 私たちの体には恒常性といって、いろいろな外界の変化に対して体内の環境をほぼ一定に保とうとする働きがあります。暑い時もあれば、凍るような寒い冬もあります。このような環境のさまざまな変化に対しても、体温とかpH、血圧、脈拍などの内部環境をほぼ一定に保とうとする働きが生体には備わっています。これが恒常性です。
 ストレス学説はこの恒常性の考えや、キャノン博士の緊急反応系説(恐怖や不安のような情動は生体に一定の緊急な反応を起こすよう作用するが、反応を起こすとそれを防ぐ反応系がある)から提唱された学説で、セリエ博士によると、長い間、強度のストレスにさらされると生体は(1)副腎の肥大(2)胸腺の縮小(3)胃潰瘍などの生体反応が起こると述べています。ところが、ストレスの害を最小限に抑えるために、動物実験でストレスを加える前にカルシウムを十分に与えておくと、これらの症状の程度が極めて小さく、さらにビタミン類(C-E-ニコチン酸)が必要であることが確かめられました。
 実験用ネズミを異常な耐圧がかからぬ程度に金網で包み、そのまま12時間放置(拘束ストレス)しておきますと、血中のカルシウムが著しく減少し、反対に副腎皮質ホルモンは増加します。これは体の緊張力を高め、ストレスに対抗するためです。人間でも急にストレスが加わると、これと同様のことが起こります。体にストレスが加わると、どうして血中のカルシウムが減るのでしょうか。
 ストレスを受けた時、早い段階では副腎隋質ホルモンが、ついで長期にわたると副腎皮質ホルモンが分泌されるようになります。副腎皮質ホルモンには消炎、タンパク分解など、さまざまな働きがあり、その中にカルシウムを排泄する作用があります。従って、長期のストレスや副腎皮質ホルモン剤の連用は、骨粗鬆症を引き起こしたり骨折を招きやすくなるのです。
 ストレスが加わり、血中のカルシウム濃度が低下した場合、まず腎臓からカルシウムが排泄されるのを抑え、腸管からのカルシウム吸収を高め、恒常性を維持しようとします。食べ物からカルシウムを適度に取っていれば、腸からのカルシウムの吸収が高まり、血中の不足が補われます。しかしストレスが長期に続き、血中のカルシウム濃度がさらに減ると、副甲状腺ホルモンが分泌されるようになり、これが骨からカルシウムを溶かし出し、低下したカルシウム濃度を高めるように働くのです。
 この時、骨から溶け出たカルシウムは必要以上に多いのが常で、今度は逆に地中のカルシウムが余ることになります。余ったカルシウムが再び骨に戻れば問題はないのですが、一度骨から溶出したカルシウムは、再び骨に蓄積されることはないといわれています。溶出したカルシウムは血管壁や他の細胞の中に侵入し、動脈硬化を起こしたり細胞の老化を早めたりします。
 日本人にとくに多い肩コリさえも、カルシウム不足に起因している場合があります。つまり、ストレスによって血中のカルシウムが減少し、これを回復するために骨から多量のカルシウムが溶出し、その余った分が血管壁に沈着すれば動脈硬化が起こります。また血管の細胞に流入すれば、血管が収縮して血圧が上がり高血圧になります。循環器系の病気をはじめ、過度のストレスによって発生、悪化する病気はたくさんありますが、その多くが血中カルシウムの減少を介して起こっていると思われます。

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