睡眠中の自律神経反応「自律神経の働きと筋肉疲労」

 今回は少し専門的になります。自律神経は交感神経と副交感神経よりなっており、睡眠時における自律神経は合目的に興奮あるいは休息し、全身の重要臓器や骨格筋の疲労回復のために、各部への血液の流れを適切にコントロールしていると考えられています。従来、自律神経は疲労回復のため「昼間は交感神経が興奮状態にあり、夜間は副交感神経が興奮状態になる」と考えられていましたが、実際はそのような単純なものではないということが解明されてきました。
 その内容は、睡眠に入ろうとする時、あるいは目覚めようとする時、及び眠りの浅いREM睡眠時には、従来から指摘されているように、交感神経は抑制され副交感神経が興奮します。しかし、深いNONREM睡眠時には両神経ともに抑制され、神経が麻酔された状態になってしまうことが明らかになったのです。この事実は人間の日常生活において、自律神経がどのように働いているかという基礎的なことながら、とても重要なことなのです。
 昨今、人の生理学的な日内変動(1日24時間中の経時的変化)が詳細に観察できるようになり、人間の体の中で交感神経と副交感神経の切り換えが何時、どのように生じるのか、経時的に観察することができるようになりました。前述のような自律神経の作用が明らかになってみると、さらに脳(大脳皮質)の意識レベルと自律神経の反応が一対一で対応するということが明らかになりました。
 つまり、感情の動きはストレートに筋肉と一対一で対応し、人は「身が縮まる思い」を体験すると体を丸め、身を縮めるという動作を無意識のうちに行っているのです。人間の感情は大脳の旧皮質のところが働き、大脳皮質前頭葉はそれを抑制するように働くと考えられます。この作業がうまくいかない場合が「自律神経失調症」といってよいでしょう。たとえば、道路に置き換えてみましょう。神経を道路、大脳から送られる指令を車とします。一対一の対応とは法定速度で車が走り、赤信号の時には車は停止するということです。信号を無視し、車が暴走すると交通事故がおきます。この事故が自律神経失調症と考えられます。
 この自律神経の中枢(コントロールの命令を出すところ)は視床や視床下部、あるいはその周辺部の被蓋体部などにあると考えられ、大脳皮質運動野との関係は自律神経中枢との関連で影響を受けるものとされています。大脳皮質(意識)レベルと自律神経の反応が一対一で対応する場合は、自律神経中枢に特殊な異常がない限り、常に一対一の対応で必ず同じ反応が発生するはずです。しかし、実際には必ずしも同じ反応が生じるとは限らないようです。とくに、全身の骨格筋に慢性筋肉疲労や筋肉の位置異常が観察される時には、それらの存在する場所に関連して、自律神経の反応が誤作動を起こすことが考えられます。
 たとえば写真のように、両目を閉じて手をゆっくり目の高さまで上げていきます。大脳皮質運動野からは左右とも同じスピードで同じ高さになるように命令が出ていますが、慢性筋肉疲労や筋肉の位置異常のある方の手は遅く動き、低いところで止まります。道路の例に置き換えてみますと、道路工事や事故があると道が混雑し、正常な流れが滞ってしまいます。この工事や事故を慢性筋肉疲労、筋肉の位置異常と考えればよいでしょう。
 私はこれらの自律神経の誤作動を修正するために、睡眠時のREM睡眠が存在すると考えています。先週も触れましたが、子供の場合、体の割合に対して運動量が多く、筋肉の疲労の多いことが推察されます。このような状態での睡眠時におけるREM睡眠の際には子供は寝返りを多くすることにより、筋肉疲労を解消し、血液をはじめとする体液循環の改善を図っていると解釈すると、理論的に筋道が通ります。
 言い換えれば、年齢を重ねるに従い、運動量も復元力も低下し寝返りも少なくなり、その分筋肉疲労が蓄積され慢性化していくということがいえます。次回は新しい考え方の睡眠に関するまとめを述べる予定でいます。

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