アトピーについて「アトピーは生活から」

 アトピー性皮膚炎は気管支喘息やアレルギー性鼻炎などとは異なり、必ずしもアレルギーだけで起こりません。生活環境、暮らしの状態がかなり強く関わっております。しかし、実際の対策ではアレルギーに対する治療を怠ると、アトピー性皮膚炎はよくならないのも事実のようです。先週アレルギーについて述べましたが、多くの質問が寄せられましたので少しおさらいします。
 アレルギーというのは体外から異種タンパク質(抗原)が侵入した時、体の方でこれに対して防御しようと、抗体を作って抵抗する現象で「抗原抗体反応現象」です。主なアレルギーの元は卵白、牛乳、大豆の三大アレルゲン(豚肉を加えて四大アレルゲンとも)といわれています。つまり、アレルギーでは異種タンパクが問題になるのです。食べ物に含まれるタンパク質は、自分の体の構成成分とは異なった異物であるため、これをそのまま腸菅から吸収すると困るので、体は消化してアミノ酸にまで分解します。アミノ酸になればアレルギー性はなくなります。しかし、食べ過ぎると完全に消化するのが難しくなります。早食いすると満腹中枢が刺激される前に食べ物が胃に入ってしまい、つい食べ過ぎてしまいます。
 食べ過ぎると消化、特にタンパク質の消化が不十分になるため、アミノ酸にまで分解されないまま、腸から吸収されるものが出てくるのです。これがアレルギーを起こす元のアレルゲンになると考えられます。しかも、乳幼児は腸管の発達が不十分ですから、腸粘膜の隙間が広く、大きなタンパク質分子でも通り抜けてしまうことが少なからずあります。大人では腸炎や下痢・便秘などの時でなければ大きな分子は入って来ませんが、乳幼児の腸管は未発達なので、大きな分子が入ってくる確立が高いのです。これがアレルゲンとなるのです。
 アレルゲン(抗原)が入ってくると、体の方では抗体を作って、これに対応します。抗体を作るのは白血球の一種のリンパ球です。このリンパ球には、Tリンパ球とBリンパ球の2種類があります。Tリンパ球は胸腺由来、Bリンパ球は骨髄由来で扁桃や虫垂、バンクレアスで教育されるリンパ球といわれています。体にアレルゲンが入ってきたとき、はじめに出会うのはBリンパ球です。普通の体質の人は、抗原が入ってきてもBリンパ球とドッキングしません。まだ何も結合していないBリンパ球を処女リンパ球、それが持つ抗体を処女IgE抗体、「感作されていない」といいます。太陽を見てくしゃみが出る人がおられますが、これは光がアレルゲンとなって分泌型IgEが産出されることに由来します。
 ごく一般的には光や暑さ寒さはアレルゲンになりえませんが、アレルギー体質の人ではアレルゲンになる方がおられます。そういう人はアレルギー性鼻炎や喘息などになりやすいといえます。アレルギー体質の人では、抗原と処女Bリンパ球がドッキングします。これを「感作された」といいます。これはメモリーTリンパ球によって1、2年間は記憶されています。こうして抗原と処女IgE抗体がドッキングしますと、処女IgE抗体は特異的なIgE抗体になるのです。
 例えば抗原が牛乳タンパク質なら、それだけと結合する抗体になるのです。やがて抗原は壊れ、抗体もリンパ球から離れ、血液中に入っていきます。それが血球に乗って流れ、腸管や皮膚、粘膜に達し、そこにあるマスト細胞(肥満細胞)にくっつくのです。マスト細胞にはヒスタミンやロイコトリエンなどの化学伝達物質が含まれているのです。この細胞にIgE抗体がいくつか付くと、ヒスタミンなどがマスト細胞から放出されます。
 ヒスタミンは血管を拡張して、かゆみを起こさせる物質で、ジンマ疹のとき、抗ヒスタミン剤が使われます。これはマスト細胞からヒスタミンが出るのを防止する薬です。もし抗原の侵入が1回だけだけなら、何事も起こらずに済むのですが、実際は牛乳を毎日飲んだり、卵やこれらを使った料理や菓子を毎日のように食べています。すると、特異的IgE抗体はどんどん作られ、血液中に放出されていくのです。Bリンパ球は核分裂しますので、倍々ゲームで増えていくのです。これが血流に乗って運ばれ、あちこちのマスト細胞に付いて、ヒスタミンなどを遊離させるのです。
 ところでTリンパ球には、抗体ができるのを促進するヘルパーTリンパ球と、抑制するサブレッサーTリンパ球の2種類があります。健康な人ではこれらがバランスを取り合って働いていますが、アレルギー体質の人では、サブレッサーTリンパ球のでき方が遺伝的に悪いといわれるのです。子供が小さい頃は、どうしてもこのリンパ球のでき方が悪いのです。
 乳幼児期(0~2歳)では、ほとんどの子にアレルギー症状が現れます。しかし2歳頃になると、大して治療しなくても、ほとんどの子がよくなるのです。これはサブレッサーTリンパ球がだんだん働くようになるからだろうと考えられます。乳幼児期の頃はこのリンパ球は未発達ですが、年齢を重ねるに従って働くようになってきます。したがって、乳幼児期のアトピー性皮膚炎の治療は、たとえ完治したといっても、その治療法が効いたとはいえない場合があります。これを塗ったら治ったとか、これを飲ませて治ったとよく耳にしますが、そのような治療がなくても治っていた可能性はあるのです。
 しかし、成人期のアトピーはアトピー全体の5%ほどの人が持ちこすといわれます。成人までに治らない人は、往々にしてステロイドホルモンの長期使用をされておられる方が多く、ステロイドホルモンの使用を止めると使用期間に応じた免滅反応が起こります。つまり、長く使用すればするほど、より悪くなったかのように思われる現象が起こります。しかし、これにある程度耐えてあらゆる面で生活を改善していく必要があると考えられます。

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