アトピーについて「アレルギー予防は身の回りから」

 昨今、乳幼児の検診でアトピー性皮膚炎が激増しています。しかし、アトピー性皮膚炎には多くの診断基準があり、それに合致しないと本当のアトピー性とはいえません。皮膚病には日光性皮膚炎や脂漏性湿疹などさまざまあるため、親が子供の肌が荒れているのを見て、勝手にアトピー性と思っていることもあり、簡単に見分けるのは難しいのです。このことが、厚生省のアレルギー研究班が出したアンケート調査の「アトピー性皮膚炎はそれほど増えていない。親が勝手に心配しすぎている」という結論に至ったのではないかと考えられます。
 アトピー性皮膚炎の診断基準は全部で27項目あります。次の4つの症状項目があり、このうち1つないし2つ以上を満たしていることが必要です。

  1. 強いかゆみがある。
  2. 成人ではひじ、膝の内側の皮膚が厚くなって、フケが多いかシワが深くなっている。乳幼児では頬と膝の外側の皮膚が赤くタダれている。
  3. 慢性的に経過、良くなったり悪くなったり繰り返す。
  4. 本人や家族、親族に喘息かアレルギー皮膚炎、アトピー性皮膚炎の人がいる。

 さらに(2)の症状項目が23もあり、そのうち3つ以上あてはまることとなっています。アトピー性皮膚炎といわれても、実際に診断してみると、日光性皮膚炎だったり脂漏性湿疹だったりする場合があり、それによって治療方針がまったく違ってきます。
 ところで、世界的にアトピー性皮膚炎が増加しだしたのは1965年ごろからです。その原因の1つとして考えられるのは、食物や環境が変わったこと、つまり衣食住の変化といわれます。まず、環境汚染の1つとして農薬があげられます。農業従事者の問題だけでなく、散布された農薬は作物に付着または吸収され、私たちの食生活で身体内に取り込まれます。農薬の付いた植物をエサとして与えられた動物の肉を食べても同様です。
 また農薬は空気中に飛散し、それを吸い込んだり土中にしみこんで河川を汚染し、魚介類に蓄積したのを食べることもあり、いろいろな形で私たちの体内に入ってくるのです。そのほかにも農薬と類似の化学物質やその類縁物質が身の回りにはたくさんあります。たとえば芳香剤、家の壁紙や床材、カーテンの可塑剤、合成洗剤、防虫剤、白アリ駆除剤などがあります。
 では、体の中にどれくらい農薬がたまっているのでしょうか。検察医が解剖した死体の皮下脂肪中のある化学物質を年代別に調べたデータがありますが、それによると年を取るにつれて多くなります。30~40代がピークで50代になると減少してきます。また、皮下脂肪の中に蓄積された有機塩素系農薬の量についても、同じような傾向があります。前回述べました花粉症の患者の年代別発生率が、30代、40代と年齢が進みにつれて増加し、50代になると減少する事実に対応します。つまり、体内に蓄積された農薬の量と花粉症の発生率はよく相関しており、農薬がアレルギーの原因であることが推測されます。
 モルモットによるアレルギー実験に花粉症エキスを注射し症状の現れ方を見ますと、あらかじめ高度に希釈した農薬のスミチオンを投与しておくと花粉症が強く現れます。パラコートなどほかの農薬でも確かめられています。このようにアレルギー症状は1つの原因ではなく、いくつかの原因が重複して起こるものと考えられます。
 アトピー性皮膚炎などアレルギー疾患は、生活の見直しからはじめる必要があります。やる気さえあれば個人の努力でできることです。とくに食べ物は毎日取るので大きな影響があります。そこで対策ですが、これには個人の努力でできる部分と、国や医師などの専門家に頼らなければならない部分があります。個人的に治療しようという場合、いちばん身近なのはステロイド剤だと思います。
 では薬剤を使用せずに治療するにはどうしたらよいのでしょうか。大まかな注意事項を次にあげます。

  1. 水に注意する=消毒用の塩素がアレルゲンになることがある。飲み水だけでなく、風呂やシャワーの水にも注意が必要。
  2. 皮膚を清潔に保つ=まめに入浴やシャワーをするのはよいことだが、やりすぎて皮膚を乾燥しすぎないように注意する。
  3. 脂肪の摂取を控える。
  4. 野菜や海草をよく取る=ただし、リノール酸系の油の取りすぎはアトピーやアレルギーの大きな原因になる。
  5. 食べすぎは避ける。
  6. 甘いもの、加工食品、スナック菓子などは避ける。
  7. 身の回りからできるだけ化学物質を遠ざける=食品添加物や農薬のほか化粧品、合成洗剤、シャンプー、歯磨粉などにも注意が必要。
  8. 部屋を清潔にする=ダニやホコリはアレルゲンになる。
  9. 早寝早起きをする=不規則な生活は自律神経のバランスを乱す。
  10. ストレスや疲労を避ける=過度のストレスが加わると自律神経のバランスが乱れアレルギーが悪化する。
  11. 医薬品を使いすぎない=ステロイドホルモン剤の長期使用による副作用は避けた方が賢明で、抗アレルギー剤の効果も不確実。

 よく、民間療法的なものについて質問を受けます。これに対し、私は、

  1. 少なくとも、その効果が矛盾のない科学的なメカニズムで説明できる。
  2. 副作用がない。
  3. パラベンなどの防腐剤や界面活性剤を使用していない。

 の三つの条件を満たしていれば良いのではと思います。
 治療には数10年と長期を要す場合があります。極微量であっても、パラベンなどの化学物質は「チリも積もれば山となる」のように、少しづつ体内に蓄積されていきますので、気をつけて使用してください。

mn79