アトピーについて「ステロイドホルモンは諸刃の剣」

 近年アレルギー性鼻炎をはじめとするアレルギー疾患が増えています。アトピー性皮膚炎もアレルギー疾患と考えられます。アレルギー性疾患の増加と並行して近年、空気、水、食べ物といった人間が生きていくために最低限必要なものが、どんどん汚染されています。30~40年前は、これらの汚染などということは考えも及びませんでしたが、高度経済成長にともなう環境汚染は目を見張るものがあります。
 昔と今の疾病の主な変化は、昭和35年には結核患者が94%と圧倒的に多く、今日では脳血管障害や精神障害に加えアトピーやぜんそくなどのアレルギー疾患が目立っていることです。また、20代、30代でアトピーになる人が増えるとともに、アトピーの治療に使われているステロイド剤の問題や結婚、就職などの問題がより一層ストレスになり、アトピーが悪化するという悪循環が生じ深刻化しています。
 この激増しているアトピー性皮膚炎に対して、厚生省も平成5年にアレルギー研究班を編成し、アンケート調査を行いました。その結果が翌年の4月に発表されましたが、それは「アトピー性皮膚炎はそれほど増えていない。親が勝手に心配しすぎている」という、およそ現実とはかけ離れた結論でした。また同時に行った治療法の調査で、ステロイドホルモン剤の塗り薬で対処しているという患者が93.7%と圧倒的であり、その中でもステロイドホルモン剤の外用による皮膚障害の副作用は、20代、30代の女性に多く被害が出ていることも報告しています。
 昔から「子供のアトピーは大きくなれば治る」といわれますが、このこととよく合うデータが長崎大のアトピー性皮膚炎の患者の推移を調べた統計結果にあります。これによりますと、3歳をピークにして2~5歳にアトピーの患者が集中しており、アトピーは幼児期に多く、幼稚園、小学校に上がる頃にはだんだん良くなっていくことを示しています。しかし最近は、思春期あるいは20から30代でアトピーを発症する人が増えています。これは順天堂大の統計にも表れており、男女とも20から29歳が圧倒的に多くなっており、最近、とくに成人のアトピーが大きな社会問題になってきています。長崎大のアトピー性皮膚炎の患者の推移の統計では、1967年には皮膚科を受診した患者のなかに占めるアトピー患者は1.4%でしたが、その後、年々増加し、20年後には皮膚科患者全体の1割以上になっています。とくに近年18歳以上の成人のアトピーの増加が目立っています。
 時々「アトピーが良くなったらぜんそくになった」ということを耳にします。これは人間の身体は、外から入ってきた異物つまり抗原に対して反応する臓器が年齢によって変わり、生まれて間もない乳児期は消化器系の感受性が強く、牛乳などの異質タンパクに対してアレルギーを起こしやすいのです。異種性の少ない母乳で育てるのが良いことはいうまでもありません。それが幼児期には気管支などの下気道の感受性が強くなり、気管支ぜんそくが起こりやすくなります。さらに学童期から思春期になりますと上気道や目の感受性が高くなり、アレルギー性の鼻炎や結膜炎が増えてきます。このように同じアレルギー体質でも、成長するにつれて症状を起こす部位が変化するのです。これを「アレルギー・マーチ」といいますが、なぜこのように変化するのか詳しいことは分かっていません。
 病院で出される薬のうち多いのは循環器系薬剤、抗生物質ですが、それに次いで多いのがステロイドホルモン剤です。これは塗り薬ばかりでなく、飲み薬や注射薬としても出されます。ご存じのように、ステロイドホルモン剤は消炎効果が強く全身のどの部位に起こった炎症でも鎮めます。ステロイド剤は炎症のある病気に用いられますが、これは決して治す薬ではなく症状を抑える薬だということを忘れてはなりません。つまり薬はすべて副作用がありますが、特にステロイド剤は安易に長期にわたって使用しないよう注意が必要です。
 副作用は内分泌系、代謝系、循環器系、血液系、免疫系、結合組織、消化器系、中枢神経、目とほとんど全身に及びます。内分泌系では子供に投与しますと成長が抑えられます。これは飲み薬だけでなく、塗り薬でも報告されています。免疫系ではアレルギーを抑えますがリンパ球が減少しますので、外から入ってきた細菌やウイルスなどに対する抵抗力が低下します。結核にかかっている人では結核が悪化するのです。
 ムーンフェース(満月様顔貌)という症状がありますが、ステロイド剤にはタンパク質を増やし体重を増加させる作用があります。これが顔にあらわれると満月のように丸い顔になります。また、ステロイド剤は消化管にできた潰瘍を悪化させたり、血糖値を高め糖尿病を促進します。目では白内障が起こったり増悪したりします。白内障はアトピー性皮膚炎によって発症するものもありますが、ステロイドホルモン剤の副作用として起こってくる場合が多いようです。ステロイド剤の使用は皮膚病だけにとどまらず、眼科では白内障の治療にステロイドホルモン剤が使われます。アトピー性皮膚炎の患者は、ステロイド剤の副作用やリバウンドで苦しんでいる上に、またステロイド剤を使用して白内障を治療しなければならない大変矛盾した悪循環に陥ります。
 ステロイドホルモン剤は使用をうまくすれば副作用が少なく切れ味さわやかで効果的なのですが、長期使用は注意が必要です。しかしステロイドをすべて否定していると思われては困ります。あくまで長期使用を避け、できれば症状の重い時に1、2日だけ使用するように心がければ副作用の心配はそれほど恐れることではありません。神経質になり過ぎず、うまくステロイド剤を活用したいものです。

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