脳卒中について「細胞の死は1日10万個」

 脳卒中とボケとはいうまでもなく違いますが、脳卒中でもないのに人はなぜボケるのでしょうか?
 私たちは年を取ると記憶力が衰え物忘れをするようになります。また、脳梗塞(こうそく)を起こしたりアルツハイマー病になるとボケるのは仕方のないことといえます。忘れるというのはその前に記憶しなければなりません。一口に記憶といってもいろいろな種類に分類されています。痛みや温度などの刺激はごく短い時間での記憶で「感覚記憶」とよびます。これに対して、数秒間記憶しているのは「一次記憶」といいます。数字や語句を復唱するのはこれに入ります。
 一方、数分から数年間記憶しているのは「二次記憶」といい、五感を働かせて記憶すること、例えば試験のときの一夜づけ、音楽がこれに当たります。「三次記憶」は自分の名前や、いつもの通学路のように永久に覚えている記憶です。これら二次記憶と三次記憶は長期記憶と呼ばれています。通常、感覚記憶や一次記憶は年を取ってもそれほど衰えませんが、長期記憶の中でも二次記憶は加齢とともにどんどん低下していきます。どこがで会った人なのにどこで会ったか、なんという名前だったかが思い出せないということがよくあります。
 よくこの頃物忘れがひどくなったといわれる方がおられますが、物忘れがひどくなったという場合、昔の記憶がなくなるのではなく、新しい出来事を記憶する力が落ちているのです。これを前向性健忘と呼んでいます。これに対して脳梗塞やアルツハイマー病による病呆では、昔覚えた記憶も忘れてしまいます。これを逆行性健忘と呼びます。
 一般的に、健忘、病呆、悦惚(こうこつ)などをボケの意味で使っていますが、医学的には悦惚はエクスタシー状態を指します。したがって、日本では健忘や痴呆がボケに相当します。一方、中国ではボケという言葉は痴呆には使わないようです。中国では痴呆は自痴とか気遣いといった意味で、人をバカにするときに使うようで、中国の人と痴呆について話すときは注意が必要です。
 結局、日本でも中国でも共通して用いられるのは健忘です。なぜ、健忘というかといいますと、長い人生には楽しいこと、嬉しいこと、苦しいこと、嫌なことがたくさんあります。人は嫌なことや苦しいことが多いとノイローゼになったり気が狂いそうになったりします。そういうことが多すぎると健康に年をとれません。そこで我々の大脳は、苦しいことや嫌なことを自然に忘れるように、プログラムされているようです。それが健やかに忘れ過ぎること、健忘といえます。
 先ほど、加齢とともに記憶力、とくに二次記憶力が落ちると述べましたが、脳の血流量を測ってみますと、加齢に伴って低下していきます。同じように脳のエネルギー源のグルコース代謝率を調べてみると、年とともに落ちていきます。脳の血流が悪くなると、栄養分が隅々に行き渡りにくくなり、脳の神経細胞の代謝が落ち、活動が鈍くなってきます。脳の血流が低下する原因は、脳の動脈硬化、血栓、動脈癌(がん)など様々な要因があります。しかし、症状が出たときには既に遅いことが多いので、日頃から食生活に気をつけるなどして、予防を心掛ける必要があります。
 人の体は約6000兆個の細胞からできています。そのうち脳には神経細胞が約140億個あります。この神経細胞は生後間もなく分裂増殖を止め、それ以後一切増殖することがありません。皮膚や血液の細胞(赤血球、白血球、リンパ球など)がどんどん分裂増殖するのと大きく異なります。これが神経細胞の特徴です。人の脳の神経細胞は、20歳を過ぎると1日に約10万個が死滅していくといわれます。毎日、脳の神経細胞が10万個ずつ死んでいったら、早々にボケてしまうのではないかと思われるかもしれませんが、私たちの脳の神経細胞は大半が使われていないといわれています。140億個の神経細胞のうち、実際に機能しているのは1~2割だといわれています。
 当然のことながら、脳の神経細胞が死ぬ数には個人差があります。例えば、アルコールをよく飲んでいる人は、あまり飲まない人に比べて脳の細胞の死滅数は多くなります。また強いストレスを受けている人の脳の神経細胞も死にやすいといえます。脳の神経細胞が死滅するのを防ぐためにも、ふだんの生活環境や食生活に気をつけることが大切です。
 また、ありがたいことに死滅していく脳の神経細胞は、実際に使われていない神経細胞が多いといわれます。しかし、なかには何らかの機能を担っている神経細胞も時としてあるのです。その細胞が死滅したら後に障害が残ることになります。つまり、死滅する神経細胞はできるだけ少ないに越したことはありません。
 そこで威力を発揮するにサフランがあります。その起源は古く、紀元前の昔から薬として利用されてきました。西洋料理ではサフランライスやブイヤベースなどに香辛料、着色料として利用されています。「脳卒中について」で少し触れましたが、東大薬学部の斎藤洋教授、九州大薬学部の正山征洋教授との共同研究で、サフランの脳に対する作用ですばらしい効果のあることがわかりました。ボケや脳卒中予防にサフランティーとして飲むのも良いことだと思います。

mn73