脳卒中について「神経再生=軸索流」

 脳卒中を起こすとよく半身不随が残ることがあります。言うまでもなく、脳細胞は分裂終了細胞であって、生後は一度死滅すると二度と再生しません。しかし、程度の差こそあれ、1カ月くらいするとよくなる例が結構あるのも事実です。
 脳には脳細胞つまり神経細胞が140億~150億あり、それがぎっしりと詰まっています。そして神経細胞は1個が平均5000本の枝を出して、ほかの神経細胞と連絡を取り合っています。つまり自身も5000の連絡を受けているわけです。そうなると脳全体では140億×5000という、とてつもなく膨大な数のつながりがあるということです。
 このように複雑かつ緊密なネットワークで脳という組織は構成されています。脳の神経細胞が脳卒中などによって壊れた場合、この細胞が再生しないのは大変困ったことですが、「脳」が壊れたら二度と機能は回復しないのかといいますと、出血や梗塞ができた部位にもよるのですが、かなり早く回復することも期待できるのです。決してあきらめてはいけません。
 何の症状もないのに、たたまレントゲンを撮ったら脳梗塞があり、少しの範囲で破壊されていたが、数カ月して再度撮影したら、その影が消失して元通りになっていたという経験をお持ちの方も多いと思います。このように場所が生活にあまり関与していないところで、範囲が狭いときには症状がほとんどない場合が多くあります。それには「神経の再生」と「脳の機能の再編成」がかかわっているといわれます。
 今回はまず「神経の再生」についてお話ししましょう。脳や脊髄にある中枢から出てきている神経を「末梢神経」といいます。これは脳細胞から1本、細長く伸びているもので、坐骨神経では1mくらいあります。また、手の指にきている末梢神経でも50cmくらいはあるのです。この長い神経線維は細胞体から出ています。元の細胞体が死んでしまったら再生はできません。死んでしまったらそれで終わりという点では、脳の神経細胞と同じです。
 しかし、神経線維は本体である細胞体が生きている限り、たとえ途中で切れても、また伸びて再生することができるのです。その再生能力は大変強いといわれています。ただし神経が再生するスピードは、太い神経は早く細い神経は遅いという違いがありますが、平均して1日に1mmの長さと大変遅いものです。
 よく見かける顔面神経マヒの顔面神経はせいぜい10数cmですが、これが全部再生するには150日、5カ月もかかることになります。しかし、切れた神経線維が再生して伸びていっても、ちゃんと元の通りにつながるとは限りません。顔面神経マヒが回復したとき、よく頬や口の周辺がピクピクと動くようになる方がおられます。これはまぶたへいくべき神経の一部が、誤って頬や口へ行ったために、まばたきをするたびに顔全体がピクピクと動き、けいれんしているように見えるのです。
 神経とは1本のヒモのように考えておられる方が多いと思いますが、実際は1つの束(神経束)になっているのです。この中には何万本という神経線維が通っていて、その1本1本は混線が起こらないように「神経内膜」という膜に包まれ絶縁されています。電気のコードを想像していただければよいでしょう。このような神経線維が切れた場合、たとえその間が1cmであっても、神経にとっては人の何kmにも相当する距離にあたります。それを目的地に向けて正しく再生していくことは、なかなか難しいことなのです。
 再生しても方向を見失った神経は、トグロを巻いて塊を作ってしまうことがあります。これをアンプテンションニューローマ(神経切断腫)といいます。中年の女性に多く、前足部に痛みをともなうモートン病が有名ですが、これは足の第三、第四指を支配する神経の分岐部で起こった切断神経腫といわれています。
 さて、神経細胞は生きているので栄養が必要です。神経細胞の細胞体のところで作られたタンパク質や神経膜を作る物質などが、神経線維の末端まで送られています。これは神経の中にある「軸索流」という流れによって運ばれています。この流れには遅い流れと速いものがありますが、速い流れは幾種類もあるといわれており、遅い流れは1種類で、1日1mmほどしか流れないといわれます。軸索流の基本はこの遅い流れだといわれています。
 そして遅い流れのスピードは、壊れた神経線維が再生されるときのスピードと同じで、神経の再生というのは遅い流れそのものではないかと考えられています。いずれにせよ、神経が再生するには十分な栄養を補給してやらなければなりません。神経ビタミンといわれるB1、B2、B6、B12、ニコチン酸、パントテン酸のB群やビタミンC、E、神経ミネラルのカルシウムとマグネシウム、それに再生のための神経内膜づくりに必要なレシチン、良質のタンパク質などを十分にとる必要があります。

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