ストレスについて1「あくびを我慢するのはストレスの元」

 このごろストレスという言葉をよく耳にします。ストレスが原因といわれる病気は昨今多くなりました。20数年前、ストレスにより胃潰瘍になることを提唱した学者は、医学界で相手にされませんでしたが、今日においては周知の事実になっています。では、ストレスを解消する薬が出来れば、ストレスが原因で起きるといわれている病気がなくなるのではないかという、素朴な疑問がわいてくるはずです。まず「ストレスとは何ぞや」ということから考えてみましょう。
 古今東西、色々な学説がありますが、ストレスは大脳旧古皮質(旧皮質と辺縁系)で感じられるものです。体の状態を一定に保つ働き(ホメオスターシス)を妨害しようとするストレスの原因には色々あります。例えば、急に物が飛んできて目を閉じる眼瞼反射(瞬膜反射)は、延髄で行われている、身を守るための原始的な反射の一つであり、同時に心臓の動悸として現れます。その後に、ビックリしたとか危なかったという感情を大脳新皮質が感じとり、さらにこのようなストレスを大脳新皮質は抑制すると考えられます。
 ストレスが加わると、視床下部を興奮させて副腎皮質ホルモンの分泌が増加されます。副腎皮質ホルモンはある種の経路を通ってアドレナリン(不安のホルモン)ノルアドレナリン(怒りのホルモン)を分泌します。これにともなって血糖値も上昇します。糖尿病の人はストレスを避けることが大切です。ストレスが加わり精神的にイライラしますと、ノルアドレナリンやアドレナリンがどっと分泌されます。このことは交感神経を興奮させることと同じになります。その結果、血管が収縮するために血液の流れが悪くなるのです。つまり、精神安定剤といった類いのものは大脳新皮質に一時的にしか作用せず、ストレスは根本的に解決されないのです。
 人間の脳は原始にちかいほど生命を司っています。すなわち、ストレスはダイレクトにその反応を原始的な臓器(筋肉、神経、内臓)に伝えられやすいのです。その時の筋肉とは狭い意味の筋肉ではなく、腱、じん帯、骨膜など、いわゆる筋肉系を指します。
 筋肉を細かく見てみますと、アクチンとミオシンという二つの筋センイから成っています。筋肉が収縮する時は両方の筋センイがおたがいに滑り込むような形で重なるスライディングが行われます。両センイの中には小さな筋小胞体という小さな袋があり、この中にカルシウムが収められています。筋肉が収縮するときは、この小さな袋の中からカルシウムが出てきて、筋センイのスライディングを促進するので筋収縮が起こります。カルシウムが出たままでは筋肉は収縮したままであり、これが慢性筋肉疲労になります。
 ところが、カルシウムが筋小胞体から出るときは比較的少ないエネルギーですむのですが、筋小胞体に戻してやるときは、ずっと多量のエネルギーを必要とするので、ストレスによるエネルギー不足は凝りを起こしやすくなるのです。つまり、筋肉は縮み、弾力性や可動性が失われます。その結果、その筋肉に付随する臓器が自由に運動できなくなり、障害となって現れます。その一例が胃潰瘍であります。
 また、人は眠くなるとあくびをします。何故でしょう。よく言われるのは、大きなあくびをすることにより、酸素を取り入れて脳に供給するためといわれています。しかし、犬や猫があくびをしているところを見られたことはおありだと思います。以前に述べましたが、人間以外の動物は口で息をすることはできません。つまり、あくびは酸素を取り入れるためでないことが考えられます。
 動物の頭蓋骨の上は薄い筋肉と上皮が覆っています。この筋肉を弛緩させると、外頚動脈に血液が多く流れ、内頚動脈に分かれる血液が少なくなり、脳内血流量は減少し酸素分圧が下がります。つまり酸素不足の状態になり、そのとき脳細胞を守るため、脳内麻薬様物質が分泌され脳細胞を麻酔状態にします。そして睡眠に移行するのです。あくびを我慢していると、脳内の血流量が減らず脳内麻酔様物質が分泌され難くなり、疲労物質をためる結果になります。この積み重ねは気づかないうちに大きなストレスとして作用し、エネルギー不足につながり、筋肉の凝りとなって現れます。

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