口呼吸による身体の力学的対応「口呼吸に伴うえん嚥下癖(えんげ)の舌圧は60グラムだ」

 あなたやご家族の方々は口呼吸ではないでしょうか。いやそんなことはないと思われるかも知れませんが、以前に述べた「鼻呼吸と口呼吸の十の鑑別診断法」を思いだして下さい。睡眠中に口呼吸を行っている人は意外に多く、本人にはその自覚がないだけの場合が多いのです。
 今日の文明社会では習慣性の口呼吸は、幼児から成人、老人に至るまで極めて多く、一般的な習癖となっています。口呼吸についてはアングル(米国)が上の歯が前に出る上顎前突との関連を指摘していますが、歯列矯正を必要とする患者の方々をよく観察しますと、口呼吸が上顎前突のみならず、下の歯が前に出る下顎前突や上下の歯が開いていて合わない開咬など、さまざまな疾患と密接な関係にあることが分かります。
 その理由として、口呼吸に伴う嚥下癖(ものを飲み込む時の舌の使い方)により、前歯に加えられる舌圧は一歯に対して約40~60グラムあるといわれていることがあげられます。嚥下の際の舌圧を口唇が受け止めて、プラスマイナスゼロにして初めて歯は動かずにその位置にいることになります。しかし、この時に口呼吸により口唇の力が弱まりますと、舌圧は歯を移動させるのに十分な力になります。つまり、口呼吸患者に見受けられる開咬や上下顎前突の多くは、この嚥下時の舌圧に起因すると考えられます。また、顕著な口呼吸患者では、舌位は正常位にくらべて前方位をとり、そのために舌骨が通常より上方に挙上されています。
 歯は25~70グラムの側方力で簡単に移動します。これが歯科矯正の基本原理です。歯は舌の外側に押す力と唇と頬による内側に押す力のつりあった所に並んでいます。これを歯列弓といいます。歯が出ることにより、口輪筋(唇を閉めるための筋肉)の能力が弱まり、唇を閉じることができにくくなり、より一層歯が出やすくなり、これを重ねることにより口呼吸が激しくなります。歯科矯正の費用を節約するうえでも、口呼吸を止める努力をしたいものです。
 また、寝癖の所で少し触れました、うつぶせ寝・横向き寝、口呼吸、片側咀嚼(そしゃく)癖、頬杖、といった習癖は合併することが多く、とくに三つの習癖の合併が最も多く、ついで二つ、四つが合併するケースが多いといわれています。これらの習癖による変形については、顔貌の非対称性、歯が唇と舌の方に入り乱れる叢生(そうせい)、歯列弓の形状、咬合面の傾き(歯が傾くこと)、上下口唇の形状、上下顎の前突、切歯の対咬異常、歯列の間隙などがあげられます。こうした変形を有する人には数種類の習癖(寝癖、頬杖、口呼吸、指吸い、咀嚼癖など)の合併ないし連鎖が認められる場合が多く、前述の変形症は習癖により加えられる生体力学的要因とほぼ一致するといわれております。
 ここで大切なことは、顎関節症をはじめとする顔貌の歪みは、習癖により進行した顎骨、歯列弓、顎関節頭の変形症の背景のもとに、慢性筋肉疲労や外傷要因、例えば足首の捻挫、仙腸関節の異常、鞭打ち症などが引き金となり発症すると私は考えています(顎関節症については改めて触れます)。また、俗にいう歯槽膿漏(歯周病)患者もこの口呼吸の習癖をもっている人が多く、歯槽膿漏の原因の一つに口呼吸による粘膜の乾燥と歯列の不正、歯軸の唇側移動に起因する炎症があることを忘れてはなりません。
 口呼吸と関係の深いものにアレルギー性鼻炎や風邪、喘息、蓄膿症といった疾病があげられますが、正常な人における睡眠時の口呼吸は枕の使い方やその形状に問題がある場合が見受けられるようです。次回は枕について述べる予定でいます。

mn16
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