寝癖による身体の力学的対応「うつ伏せ寝の顎にかかる負担は、なんと9キログラム」

 あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願い申し上げます。私事になりますが、本日、私の41歳の誕生日です。タバコのメリット、デメリットについてはいつか述べたいと思いますが、今年は「禁煙を目標にしてみるか」と考えています。
 さて、本論にはいりますが、あなたの顔は歪んではいませんか。よく見ると、多くの人は左右対称ではありません。その理由はなんでしょうか。一には寝癖、二には噛み癖があげられますが、今回は寝癖についてお話し致します。
 睡癖(睡眠時における姿勢の癖)が歯並びに影響を及ぼすことは、すでに80年前にアングル(米国)によって指摘され、周知の事実です。歯列の異常の原因は大きく二つ考えられます。一つは外力によるものと、二つは歯牙と顎の大きさの不調和です。また、歯列弓(歯並び)の形状は遺伝的な影響を受けるといわれていますが、種々の外力により変形を来すと考えられる場合も多々あります。しかし、外力をあまり重視しない治療法が行われているのが現状であります。
 そもそも人間の歯は、細い繊維(歯周じん帯)と歯根膜という繊維組織で支えられており、それらの組織は歯でものが噛まれた時の圧力を緩和するというクッションの役割を担っています。そして歯に加わる持続性の側方力で歯が移動するのは、この歯の回りにある歯周じん帯の作用によるものです。これは力学刺激により歯を取り巻く歯周じん帯に接する骨が、吸収または添加(骨の改造現象)が起こるためであります。歯列矯正はこの原理を応用したもので、奥歯を後ろに移動させる場合には、500グラム以上の外力を加えることもあり大変な作業なのですが、側方力には大変弱く、容易に移動する性質をもっています。一般的に、歯に25~70グラムの持続性の一定の側方力を加えることにより、歯を移動させることができます。
 したがって口腔とその周辺の癖により、側方力が反復して歯に加わると歯列弓の形は当然変化します。頬杖の癖や睡眠時の寝癖が大きく影響するということです。つまり、枕に作用する頭の重量が問題になり、成人においては臥位(上向き)で約5キログラムの重量になりますが、側方位では体重の一部が加わるため約6キログラムになるといわれています。さらに、半うつぶせ姿勢で肩を頭頚部より後方にもってくると、頭蓋に加わる体重が増加し、枕に作用する頭蓋の重量は約7キログラム、完全にうつぶせの姿勢では8~9キログラムの重量になります。しかも、概ね枕に接する頭蓋の位置が下顎周辺であるため、上下顎骨と歯列は側方位またはうつぶせの睡眠姿勢で大きな力を受けるといわれています。
 これは大変重要なことであります。少なくとも、一歯に30~200グラム程度の側方力が加わると考えられます。うつぶせや横向きなど特定の睡癖が外力として顎顔面に作用し顔の変形が起こります。つまり、顎顔面、歯列弓の変形症を有する人には、特定の睡癖が大きく関わっている場合が多いのです。しかし、今までの臨床では睡癖はあまり重要視されませんでした。そのため顔の変形症は原因を考慮することなく手術が行われ、術後に再発する症例も少なくありません。
 一方、顎骨には下顎と側頭骨の間に関節があり、これを顎関節といいます。この顎関節は下顎全体に加えられる力の中心として働き、軸としての機能をもっています。関節の多くは動くことができると同時に力を受け止める場所であり、一方、骨は長期にわたる力に従って形を変化させる特質をもっいます。よって、顎関節の形も顎骨の形とともに長期間、力の偏りが続くことにより左右差を生じます。
 以上のことからも、寝癖は一定方向に寝るのではなく、寝返りをうつことが絶対に必要だということが容易に推察されます。これは外力による頭蓋骨の変形の防止と、今まで述べてきた筋肉の慢性疲労を取る意味においても大切なことです。次回は口呼吸における身体の力学的対応について述べる予定です。

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