睡眠に対する新しい考え方「深い睡眠は心臓を休めるため」

 前回述べましたように、現代医学の「健康生活には規則的で十分な睡眠が必要」とする考え方が、正しい知識として広く一般に知れわたり、常識化しつつあります。私の考え方に興味を抱いて下さる方々のなかにも、これら現代医学の常識を正しいと信じている人は多いと推察されます。
 これは、現代医学の睡眠に対する研究が、脳神経系細胞の機能を研究する一端として行われたものが多く、全身の重要臓器のエネルギー蓄積や骨格筋などにおける疲労回復の目的などの面からの研究が少なかったからでしょう。しかし、これらの常識的な睡眠の目的や睡眠の生理学的状況の解釈に対して、新しい解釈ができる可能性があり、少数派ではありますが、別の解釈が正しいと唱える研究者達がいることも事実であります。
 新しい睡眠の考え方は図のようになり、私もその考え方に賛同している一人であります。その解釈といえども、浅い睡眠(REM睡眠)と深い睡眠(NONREM睡眠)が、周期的に交互に訪れてくる事実まで否定するわけではありません。これらの事実は実験的に実証されているからです。
 また、深い睡眠を引き起こすために、大脳のある部分の脳細胞からβ-エンドルフィン、エンケファリンなど、睡眠誘導のための麻薬様物質が分泌されることも事実です。しかしながら、何故その浅い睡眠や深い睡眠が周期的に繰り返される必要があるのか、また、それら浅い睡眠や脳神経細胞から分泌される麻薬様物質による深い睡眠が、何の目的のために人間の睡眠に必要なのか、あるいは、それぞれの睡眠の間にどのような生理現象が全身に生じているのかなどの解釈について、全く別の解釈ができるのではないでしょうか。
 私の敬愛する師匠・福増博士らは、人工心臓の開発研究の際に、睡眠中の心臓機能の研究や重要臓器に対する血流の研究を行いました。そして研究の結果、人工心臓でない自然の心臓は心筋とよばれる筋肉(横紋筋と平滑筋の中間の筋肉)で形成されていること、動物は深い睡眠の間に心筋自身の疲労回復や余剰エネルギー蓄積のために、できるだけ全身エネルギーの消費を節約する、心臓自身のための休息時間が必要であることが明らかになったのです。
 また、全身の骨格筋血流の研究においても、日常生活時(脳神経覚醒時)に蓄積された全身の筋肉疲労の回復や余剰エネルギー蓄積の目的のために、順次全身の異なる骨格筋への血流増加が必要であることも判明してきました。
 そして、その全身各部分の骨格筋に血流を増加させるために、眠りの浅いREM睡眠が必要なのです。しかも、その間に無意識に寝返りなどを起こす必要があるとの結論を導き出しました。
 実はこの寝返りが重要なのです。血液のおもな成分は水分であり、高いところから低いところに流れます。つまり、心臓の力を最小限にして虚血(血の少ない)のところに重力で血液を運ぶためにも、寝返りが大いなる働きをしているといえます。
 先週、成長ホルモンについて触れましたが、読者の皆様から数多くの質問がありました。少し付け加えますと、眠り始めてすぐの深い眠りの時には成長ホルモンの分泌が最大限抑制されます。そして明け方になるに従って、成長ホルモンの分泌が多くなります。「寝る子は育つ」は朝方に育つのです。
 全身の慢性筋肉疲労は成長ホルモンの抑制因子のひとつとして、骨に働く可能性があるため、成長期の子供を朝むりやり起こすのは、瞬間的に慢性筋肉疲労を助長する可能性が高いので注意が必要です。次回は記憶に役立つ睡眠と、寝返りと慢性筋肉疲労について述べる予定でいます。

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